ロココの華ポンパドール夫人~心を掴む天才プロデュース術~

フランス王妃マリー・アントワネットが登場する少し前の時代・・・ヴェルサイユ宮殿で貴婦人達の中心にいたのは、先代の国王・ルイ15世の寵姫、ポンパドール夫人でした。
国王の公式の愛人・「寵姫」は、王族を除いては、宮廷の女性の頂点とも言える地位でした。その寵姫の座に、王との出会いから亡くなるまでの15年間も君臨し続けた彼女は、
「ヴェルサイユの無冠の女王」と呼ばれ、今でも歴史に名を残しています。
さらに驚くことに、ポンパドール夫人は貴族階級の出身ではなく、元は庶民出身の女性・・・。本来は国王と会うことすらできない身分に生まれながら、その美貌と才覚、そして人を喜ばせるアイデアとセンスを武器に、国王を射止め、生涯、心から愛され続けたのです。
今回は、ポンパドール夫人のアイデアとセンス・・・特に、どんな人も喜ばせて、味方につけてしまう天才的なプロデュース術についてご紹介します。
1:平民の娘として生まれて・・・

ポンパドール夫人、本名ジャンヌ・アントワネット・ポワソンは1721年にパリの中産階級の家に生まれました。
彼女は幼い頃、占い師に「『王妃に近い者』になる」と予言されたそうで、両親はジャンヌ・アントワネットの将来に大いに期待をかけていました。そして、「あわよくば国王に見初められ、玉の輿に乗れるように・・・」と徹底的に英才教育を施します。
語学、歴史、歩き方、立ち居振る舞い、乗馬、ファッション、絵画、ダンスはもちろん、一流のプロを家庭教師として雇って、さらに特別な才能を磨かせました。
パリ・オペラ座の花形スター歌手からは、声楽と楽器演奏を、有名舞台俳優からは演劇・ダンス・朗読を、当代一の劇作家からは、人を楽しませる会話術を・・・と、時代のトップランナーたちに直接、手ほどきを受けていたそうです(!)。
なかでも、演技力と歌唱力、会話術は、素晴らしくレベルの高いものだったそうで、王の寵姫となった後も大いに彼女の助けとなりました。
こうして、大貴族の妻にふさわしい教養と身につけたジャンヌ・アントワネットは、18歳の時に、母のツテで貴族男性と結婚。晴れて、貴族としての身分を手に入れ、「エティオール夫人」として、パリの社交界にデビューすることになったのです。
そして、洗練されたパリの貴婦人たちが開くサロンで、貴族女性としてのたしなみや振る舞い方を身につけ、ますます洗練された美しさに磨きをかけていったのです。
2:アイデア満載で演出された「国王との出会い」

平民出身のジャンヌ・アントワネットには、もともと、有力貴族のコネなどはありませんでした。
「普通のやり方」をしていては、ヴェルサイユに女官として出仕することはもちろん、国王にお目通りするなんて、とても、とてもかないません・・・。
ところが、ラッキーなことに、彼女が暮らしていた城館のすぐ近くに王の狩り場があり、王の一行はしばしば、近くの森を通りかかっていたのです!

大変な美男子で、貴婦人たちにそれは、それはモテたと言われています。
そこで、ジャンヌ・アントワネットは、一計を講じます。コネがないなら、自分で出会いを作ればいい!・・・偶然を装って、王と森の中で行き会い、運命の出会いを演出することにしたのです。しかも、「ただの出会い」ではなく、当代一のモテ男でもある王の好奇心を惹き、ちょっとやそっとのことでは忘れられないような「特別な出会い」を・・・。
彼女はまず、馬車で森を走り回り、王の一行のルートを割り出し、森の小径を調べ尽くしました。そして、森の十字路の脇道から馬車で飛び出し、王の一行と交差するという作戦を立てました。
さらに、ジャンヌ・アントワネットの凄いところは、自分を効果的に見せる方法を知り尽くしていたことです。馬車や衣装、それに小道具まで、すべて王との出会いのためだけに特別に用意したというから、そのこだわりと執念にはビックリですよね。
馬車は2台も用意し、荷台から車輪まで、すべて「珊瑚ピンクに塗った馬車」と「スカイブルーに塗った馬車」だったそう・・・これだけでも、かなり「ド派手!」ですよね・・・(^_^;。
しかも、スカイブルーの馬車に乗る時には、珊瑚ピンク色のドレスを着ていたそう。そして、ピンクの羽根つき帽子をかぶり、手にはピンクのリボンを編んで作った小さな鞭を持って乗り込んだとか。もちろん、ピンクの馬車に乗る時には、スカイブルーの衣装を着ていました。

ブルーの馬車にはピンクとブルーのかわいい羽根飾りがついています。実際は白馬で、ピンクの帽子・・・と、これよりも、もっと華やかだったようです♪
さらに、彼女が座る御者台の横には、クチナシの花を一杯につめたカゴを置き、馬車に近づいた人の鼻先には、クチナシの甘い香りが漂う・・・というニクイ演出までしていたそうですよ。
馬車も小ぶりで、小さな白いポニーにひかせていたとか・・・。小さくキュートな色の馬車に、おとぎ話の挿絵のようなロマンチックな服装、甘い花の香りに、輝くばかりの明るい笑顔・・・男性受けを狙うというよりも、とびきりキュートな女性好みの演出ですよね。私などは、想像するだけでときめいてしまいます・・・。

花言葉は、「喜びを運ぶ」「私はとても幸せです」。
ポンパドール夫人も、きっと知っていたのでしょうね。
きっと、ジャンヌ・アントワネットは、自分自身が思いっきり楽しみながら、トキメキながら、嬉々としてこの大作戦に取り組んでいたんだろうなぁ・・・と思います♪
そうしてある日、とうとうジャンヌ・アントワネットは、国王の一行の前に馬車で飛び出すことに成功します。彼女のもくろみ通り、この出会いは国王を面白がらせ、強烈な印象を与えたといいます。そして、この出会いをきっかけに、ジャンヌ・アントワネットはルイ16世最愛のパートナー・「ポンパドール公爵夫人」としての道を歩み始めたのです。
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