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アフターヌーンティーとヴィクトリア女王―紅茶がつないだ「大切な人」との絆-

3:庶民に広まったアフターヌーンティー

 ヴィクトリア女王の治世が始まった頃、お茶は中国でしか生産されておらず、とても貴重で高価なものでした。そのため、豪華なティータイムは、地位とお金をもった一部の人だけの楽しみに過ぎませんでした。

 ところが、栽培技術の進歩により、植民地のインドでアッサム茶やダージリン茶が大量に生産できるようになり、お茶の値段もだんだんと安くなっていきました。

さらに、産業革命によって、中産階級や庶民の所得も増えてきて、お茶やお菓子、ティーカップなどの茶器が、一般市民の手にも届くようになりました。まず、中産階級の女性たちが、上流階級の習慣を真似てアフターヌーンティーを取り入れ、やがて、ティータイムの習慣は豊かな中産階級の間に一気に広まっていきました。

ビクトリア朝時代に活躍した絵本作家、ケイト・グリーナウェイの作品「Tea Party」。
豊かな中産階級の女性たちが庭でアフターヌーンティーを楽しむ様子が描かれています。
当時の中産階級向けの家政本に描かれたアフターヌーンティーのテーブル
(「ビートン夫人の家政本」より)

 ところが、この頃、上流階級や中流階級が豊かになっていく一方で、貧富の差が広がり、貧しい労働階級の生活はますます苦しくなっていました・・・。  

 労働者階級が置かれていた生活環境は劣悪で、女性はもちろん、小さな子供たちが工場や炭鉱などで重労働をさせられ、ロンドンの町中に浮浪者があふれているような状況でした。そのため、粗悪なジンやビールなどの安物のアルコールで過酷な生活によるストレスを発散していたそう・・・。

 大人だけでなく、幼い子供までアルコール中毒になる人が後を絶たず、家庭では虐待やDVも日常茶飯事だったと伝えられています・・・。 

禁酒啓発用に刷られた当時の版画。労働者階級の飲酒問題は深刻な社会問題でした。

 このように、ヴィクトリア女王の治世が始まった当初は、労働階級のアルコール問題は深刻な社会問題となっていました。

この問題を何とかしようと、イギリスでは「禁酒協会」が作られ、労働者の職場や家庭で紅茶を飲むように奨める「禁酒運動」が巻き起こりました。

貧しい労働者の置かれている厳しい状況に心を痛めていたヴィクトリア女王もこの活動を積極的に支援します。そして、その効果もあって「アルコールの代わりにヴィクトリアンティーを」をかけ声に、全国的に禁酒運動が広がりました。

また、上流階級や中産階級の女性たちを中心に、貧しい人々に対するチャリティー活動も活発に行われるようになりました。王室の人たちも、貧しい人々に無償でアフターヌーンティーを提供する「チャリティーお茶会」を行いました。

 こうして、だんだんと労働者階級にも紅茶を飲む習慣が広がっていきました。そのおかげで、「アルコール依存症が大幅に減り、労働者階級の人々も家族の団らんを楽しむことができるようになった」と伝えられています。


4:家族の思い出がつまった「ヴィクトリアン・サンドイッチ」

 スコーンと並んで、アフターヌーンティーで出される定番のケーキといえば、イギリス人は真っ先に「ビクトリアン・サンドイッチ」を挙げることでしょう。

イギリス人にとっては、各家庭に代々伝わるレシピがあると言われているくらいの「定番中の定番のお袋の味」なのだそうですよ。

 ヴィクトリアン・サンドイッチは、同量のバターと砂糖、卵、薄力粉を混ぜ合わせて焼いたケーキにラズベリージャムを挟み、砂糖をてっぺんに振りかけただけの、とてもシンプルなお菓子です。

当時のビクトリアン・サンドイッチ(左列2段目)。
当時は今のような分厚いケーキではなく、

手袋をしたままでつまめるように、薄いケーキを細長く切ってありました。

 こんなに素朴なケーキが、華やかできらびやかなアフターヌーンティーの定番だなんて・・・と、何とも不思議な感じがしますが、これにはヴィクトリアにまつわる、とあるエピソードが関係しているのです。

 9人もの子供に恵まれ、幸せの絶頂にあったビクトリアでしたが、1861年に最愛の夫・アルバートが腸チフスにかかり、わずか42歳で突然この世を去ってしまいます・・・。

あまりに大きな悲しみに打ちひしがれたヴィクトリアは、生きる気力を失ってしまいます。そして、10年もの間、ロンドンから遠く離れたワイト島のオズボーン・ハウスに引きこもってしまったのです。

アルバートを亡くしてまもなく、うつろな表情のヴィクトリア。
生涯、喪服を脱ごうとしませんでした。

 そんなある日、塞ぎ込む女王を励まそうと、オズボーン・ハウスでアフターヌーンティーパーティーが開かれました。その時に出されたケーキが、ヴィクトリアン・サンドイッチだったのです。

このケーキを食べた女王はとても喜んで、少しずつ元気を取り戻していったそう・・・。

 一説では、ヴィクトリアン・サンドイッチは、「アルバートが生きていた頃に、ヴィクトリアが夫と子供たちのためによく焼いていたケーキだった」・・・とも言われています。夫と家族で楽しんだアフターヌーンティーの思い出と懐かしい家族の味が、ヴィクトリアの生きる気力を呼び覚ましたのでしょうか・・・。

 ふんわりと心を包んでくれるような優しい味に、ちょっぴり切なくなるような懐かしさ・・・。ヴィクトリアンサンドイッチが、イギリス人に愛されるのは、あたたかい家族の思い出を呼び覚ましてくれる不思議な力を持ったケーキだから、なのかもしれませんね。


<ビクトリア女王からのメッセージ>

「三度の食事以外に、ゆっくりとお茶を飲む・・・そんな時間を持っていますか?

せっかくのティータイムには、何かをしながら、なんとなくお茶を飲むではなく、

ぜひ、その場の空気や会話を楽しんでみてくださいね。

携帯は手放して、テレビは消して、この先の予定は頭の中から追い出して・・・『今、ここ』を味わってみましょう。

ちょっとした素朴なお菓子と一杯の紅茶でも、じっくりと味わうことで、幸せな時間に変わりますよ。」

現役外科医、元報道記者の「プリンセスの歴史マニア」。 歴史上のプリンセスの人生を通して「女性がハッピーに生きる知恵」を発信中。

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