マリー・アントワネットが愛した花々~王妃の素顔を紐解く5つの物語

「ロココのバラ」と謳われた、最後のフランス王妃マリー・アントワネット。
高価な宝石やドレスに身を包み、豪華絢爛なベルサイユ宮殿で舞踏会に明け暮れていた・・・というイメージが色濃い王妃ですが、実は、自然や花々、素朴な田園風景を心から愛する「ナチュラル志向」を持った女性でもありました。
幼少期を過ごしたシェーンブルン宮殿で、花々や自然に囲まれて、あたたかい家族に愛されて育ったアントワネットは、何よりも花が大好きで、感性の豊かな明るい少女でした。
自然の美しさや、あたたかい人間関係を愛するアントワネットにとって、人工的で豪奢なベルサイユ宮殿での、うわべだけの人間関係に囲まれた暮らしはとても息のつまるものでした。
さらに、ベルサイユでは、王妃の一挙手一投足が全て周りに公開され、一日中、形式張った規則にがんじがらめにされる・・・。公人たる王妃が「自分のために生きる」時間など許されない生活だったのです。
そんなアントワネットが、唯一、「自分自身にもどること」ができた場所が、夫ルイ16世にプレゼントされたプチ・トリアノン宮殿です。
アントワネットは、プチ・トリアノンの庭園やインテリアを自分好みに改造し、沢山のお気に入りの花々で埋め尽くし、自分だけの「理想郷」を築き上げました。そして、その理想郷に仲の良い友人や家族だけを招き入れ、自然の中で花々を愛でながら、大切な人たちとの心の通った交流を持とうとしていたのです。
今回は、マリー・アントワネットの理想郷、プチ・トリアノン宮殿の花々の中から、アントワネットが愛した5つの花とそれぞれに隠された悲劇の王妃をめぐるエピソードをお伝えします。
① フランス王妃を象徴する花、バラ

アントワネットが最も愛したのは、彼女自身を象徴する花としても有名なバラ。
プチ・トリアノンの庭園には、当時、様々な色や品種のバラが集められていました。
バラの季節には、色とりどりの花々が一斉に咲き誇り、かぐわしい香りとともに来客の目を楽しませていたそう・・・。
また、「バラを持つマリー・アントワネット」の肖像など、アントワネットを描いた肖像画の多くはバラを手に持っていたり、バラの花が飾られた部屋に立つ王妃を描いています。

アントワネットはルブランの描く肖像画を最も気に入っていたそう。
バラの華やかで威厳ある美しさが、王妃としての品格をいっそう高める効果をもたらしていますが、
バラが大好きだったアントワネット自身も、バラを持って肖像画を描いてもらいたかったのかもしれませんね。
アントワネットのバラ好きは、生花にとどまらず、バラの香りもこよなく愛していたそう。
お抱えの調香師に「特に、バラの香りが好き」と伝えていたため、王妃専用の香水や化粧品の多くには、バラの香りが使われていたと言います。
そして、アントワネットは、プチ・トリアノンのバラ園を頻繁に訪れ、散歩をしたり、花を摘んだり、自ら客人を案内したりしていたそうですよ。
バラの香りを身にまといながら、軽やかな足取りで庭園を歩き回り、花かごにバラの花を摘む・・・そんな楽しそうな彼女の姿が目に浮かぶようですね。
②可憐な少女のような野の花、スミレ

アントワネットはバラと同じくらい、スミレの香りも大好きでした。
特にプチ・トリアノン滞在中に愛用していた香水は、バラとスミレをメインに使ったものだったとか。
実は、スミレの香りを香水に仕立てるのは、当時は技術的にとても難しかったのですが、王妃の調香師・ファージョンは、希少なスミレの花の精油にアイリスの精油を加えることで、「スミレ」の花の密やかで甘い香りを再現していたそう。
さらに、調香師・ファージョンの手によって、王妃の香水の他、化粧クリームの香りづけにもスミレが使われるようになりました。
化粧品だけでなく、スミレの花は、王妃の食卓にものぼり、スミレの花のジャムやバターも作られ、料理の飾り付けにも使われたそう!
こうして、アントワネットの影響で、スミレの花はフランス中で大流行し、やがて、パリの街角でも花束が売られるようになりました。
もちろん、アントワネットが多くの時間を過ごしていたプチ・トリアノンの花壇にも、お気に入りのスミレの花がたくさん植えられていて、侍従が丁寧に手入れをしていたそうですよ。
華やかな女王のような花姿のバラに対して、しとやかで、控えめな小さな花を咲かせるスミレ・・・正反対のような個性の花々ですが、どちらも大切にしていたアントワネットは、実は、華やかな美だけではなく、ひそやかで控えめな美しさも愛した女性だったのかもしれませんね。
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