マリー・アントワネットが愛した花々~王妃の素顔を紐解く5つの物語

③心を安らがせ、幸せな気持ちにしてくれるオレンジフラワー

プチ・トリアノンの庭には、純白の小さな花を咲かせたオレンジの鉢植えが、小径に沿って並べられていました。
オレンジの鉢をどのように配置するかは、なんとアントワネットが自ら、庭師に指示をしていたそうですよ。
客人たちが庭の小道を歩いていると、甘く爽やかなオレンジの香りが、どこからともなく、ふわりと漂ってくるように・・・なんとも、エレガントで粋な計らいですね♪
そして、アントワネット自身も、オレンジフラワーの香りがとても好きでした。香水や気付け薬として使っていたほか、オレンジフラワーの蒸留水を化粧水にして肌につけたり、ドリンクにして飲んでいたとか・・・。
オレンジフラワーには、ストレスを緩和したり、リラックスを促す作用があり、当時は、コルセットの締め付けで気を失ったり、ショックな出来事があった貴婦人を手当する気付け薬としても使われていました。
実際にアントワネットが、ひどい中傷を受けて、自室で取り乱して泣いていた時に、女官がオレンジフラワーウォーターを差し出した・・・という記録も残っています。
また、アントワネットは、国王や叔母たちなどの家族や、女官長、メイド、事務員をはじめとする宮殿のスタッフたちに、毎年、オレンジの花をプレゼントしていたと伝えられています。
王妃という高い身分だったにも関わらず、日頃、身の回りの世話をしてくれちる人たちにも、心地よい香りとともに、心からの感謝を伝える・・・。
本当は、このような細やかな心遣いができる優しい女性だったのですね。
浪費家で高飛車という偏ったイメージを持たれてしまいがちなアントワネットですが、彼女の本当の姿が垣間見えるようなエピソードです。
④幸福を呼ぶ野花、ヤグルマギク

小さなサファイヤブルーの花を咲かせるヤグルマギクも、アントワネットのお気に入りの花の一つ。ヤグルマギクは、ヨーロッパで古くから「幸福を呼ぶ花」として親しまれている花で、とても繊細でかわいらしい姿をしています。
別名「コーンフラワー」とも呼ばれていて、眼精疲労に効果があるとされ、ハーブティーや食用にも使われています。
アントワネットは、ヤグルマギクのモチーフをとても気に入っていたそうで、プチ・トリアノンの自室の椅子やベッドのファブリックには、バラとヤグルマギクの刺繍が施されていました。

背もたれの側面にはバラ、前面には青いヤグルマギクの刺繍があしらわれています。
そんな素朴なヤグルマギクの花ですが、家具の他にも、アントワネットがベルサイユ宮殿やプチ・トリアノンで使っていた食器セットにも、数多くデザインされています。
よほどお気に入りのモチーフだったようで、親友のランバル公妃とおそろいで、バラとヤグルマギクがあしらわれたセーブル磁器の皿を注文したという記録も残っています。

おそろいで購入したセーブル磁器製の食器セットの一枚。
バラノ花をアクセントに、周りに青と黄色のヤグルマギクを散らした、かわいらしいデザイン
ヤグルマギクは荒れ地や畑の片隅に咲く、とても庶民的で素朴な花。
アントワネットは、そんなささやかな小さな花を愛し、バラとともに自分を象徴するモチーフとして、身の回りの品に好んで使っていました。
ベルサイユ宮殿では、華やかな王妃として君臨しながらも、心許せる人は少なく、とても孤独だったアントワネット。
同年代のランバル公妃やポリニャック伯爵夫人という親友達をとても頼りにし、心から大切に思っていました。
華やかな威厳あふれる王妃としての自分と、女学生のようなピュアな友情を心のよりどころにする自分・・・アントワネットが持っていた二つの素顔を象徴するようなエピソードですね。
この記事へのコメントはありません。